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ルーの事件簿
物語は、ライズロームという町に住む幼馴染のルーとアレクの関係を中心に展開します。ルーは男勝りで好奇心旺盛な魔道士見習いであり、アレクは寡黙で剣の道にひたすらに生きる剣士です。アレクの家は道場となっており、父親から受け継いだものです。
町では『プー事件』と呼ばれる奇妙な事件が発生しており、怪しげな黒衣の魔道士によって人々が次々と可愛い動物『プー』に変えられていました。ルーの一家は魔道士の家系であり、町の人々から解決を期待されていました。ルーは犯人を捕らえ、魔法を解く方法を聞き出そうと考えます。アレクは当初、事件に無関心な態度を見せますが、「それをなんとかするのがお前の仕事だろ?」とルーに問いかけます。ルーは、アレクの助けを借りずに一人で解決すると決意しますが、結局アレクはルーを助けに現れます。
ルーが黒衣の魔道士と対峙し、格闘の末にアレクがマントを剥がすと、その正体はルーの弟であるティンがプーになった姿でした。ティンは夏休みの土産を探している途中で偶然手に入れた杖の古代文字を読み上げてしまい、魔法を発動させてしまったのです。彼が町の人々をプーに変えたのは、騒ぎを大きくすればルーたちが元に戻す方法を見つけてくれると考えたからでした。
プーになってしまったルー自身とティンを元に戻す方法が模索されます。最終的に、ルーの父が国立図書館で見つけてきた古文書から、タウパ産のチーズを食べれば魔法が解けることが判明します。ルーはチーズを食べて元の姿に戻り、ティンも同様にプーから人間に戻りました。
ルーは魔道士見習いの身分で、ザイルの魔導学校の課程を修了し、魔道士協会の試験に合格する必要があります。彼女の家族は魔法薬の調合や魔道工芸品の製作で生計を立てており、ライズロームでは富裕層に当たりますが、ルーは田舎での地味な家業を継ぐことに物足りなさを感じていました。ルーの両親は『偉大な魔道士』として知られていますが、非常にのんびりとした性格です。
ある日、薬草が不足したため、ルーは一人で危険なラズ湖周辺の森へ薬草採集に行くよう両親から促されます。アレクも同行することになり、道中、二人は大型肉食獣のオオアラシに襲われます。アレクが剣でオオアラシの腕を切り落としますが、ルーはオオアラシが母親であることに気づき、催眠魔法で眠らせ、傷を癒す魔法を施しました。この一件を通じて、ルーとアレクは互いに対する尊敬の念を抱くようになります。
その後、町のはずれで発見された古代遺跡の調査団がザイルから派遣され、ルーも父の口利きで参加することになります。調査団には地質学者のロレット、歴史学者のジーナ、そして魔道士協会の重鎮カイズ、さらには謎の美女レインがいました。レインは一瞬で石の扉を消し去り、その魔法にルーは驚愕します。扉の奥には底が見えないほどの巨大な谷があり、見事な巨大魔鉱石の鉱脈が発見されます。この鉱脈はかつてライズロームが栄えた礎であり、その存在は歴史上の記録では信憑性に欠けるとされていました。
探索後、レインはルーを『秘密の部屋』へと誘います。その部屋でレインは自らを知の神テラから神格を授かった使徒であり、200年以上生きていると明かします。そして、ルーに自身の補佐として力を貸してほしいと勧誘しました。レインの言葉は、自己の存在価値に疑問を抱いていたルーの心を強く動かします。
ルーは魔道士協会の試験を控え、自身の未来について深く思い悩んでいました。一方アレクは、ザイルへの旅の途中で「赤の剣士」と呼ばれる大陸最強の剣士と遭遇し、彼に弟子入りを志願します。アレクは道場を継ぐか、剣の道を極めるか悩んでいました。
魔道士試験では、レインが面接官の一人として登場し、ルーは「愛する人たちを守れるような魔道士になりたい」と答えます。試験後、ルーはアレクにレインからの誘いを打ち明け、ライズロームを出る決意を伝えます。アレクもまた、赤の剣士に弟子入りし、剣を極める旅に出る決意を固めました。
ルーは試験に合格し、合格者はわずか5名でした。彼女は故郷へは戻らず、両親への手紙をアレクに託します。こうして、ルーとアレクはそれぞれの道を歩み始め、新たな旅立ちを迎えるのでした。
この物語は、まるで一つの未開の地を、それぞれの地図と道具を持って探検するようなものです。ルーは自身の内なる羅針盤を信じ、新たな地平を目指す冒険者であり、アレクは己の技術を磨き、道の奥深くへと進む探求者と言えるでしょう。
リュウと空人
物語は、ラウ湖周辺に住む誇り高い空人(そらひと)と、遥か東のウズール山脈に住む巨大なリュウという二つの種族の間の衝突を描いています。
長年、リュウが空人の領域であるラウ湖周辺に侵入しないという暗黙の了解があり、大きな争いはありませんでした。しかし、ある春先の嵐の中、ホゼ率いる5人の空人一行が狩りからの帰路で巨大なリュウと衝突事故を起こします。この事故により、一人の空人が命を落とし、もう一人が行方不明となります。
空人の都を治めるボルト家の長男であるカーブラは、この事件に激しく怒り、リュウへの報復を決意します。彼はリュウの住処であるウズール山脈へ向かおうとし、弟のロンメルや妹のリズナに戦争になることを心配され引き止められます。リズナは、多くの命が失われる戦いを避けたいと願い、美の神アステラに相談しますが、アステラは戦いを止めないものの、もし戦うならば傷ついた空人を歌で癒すと告げます。空人の各集落の代表者たちは、リュウによる侮辱は死よりも耐え難いと考え、報復に賛同します。
カーブラは部下を連れウズール山脈へ侵攻し、見張りのリュウに遭遇します。リュウが空人を「羽虫」と侮辱したことに激怒したカーブラは、そのリュウの目を射抜き、事故と侮辱への報復として戦争を宣言します。
最初の戦いは、森の都と呼ばれる空人の集落周辺で起こります。リュウは火を噴き、森を焼き尽くし、空人たちは弓矢ではリュウの硬い皮膚を貫けず、多くの犠牲者を出します。空人たちは有効な対抗策がないことに苦悩します。
そんな中、リズナは、成人前の15歳の少年ウィンと出会います。ウィンは戦場に出ることを強く望んでおり、リズナとロンメルは彼に不思議な力を感じます。ロンメルは、リュウには刃物による直接攻撃が有効だと考え、ウィンを空人に伝わる伝説の剣がある洞窟へ連れて行きます。ウィンは、誰も抜くことができなかったその剣を岩から引き抜くことに成功し、選ばれし者として伝説の剣の使い手となります。
伝説の剣を携えたウィンは、劣勢に陥っていた戦場に現れます。ウィンは驚異的な速さと剣技でリュウの急所を的確に攻撃し、次々とリュウを倒していきます。ウィンの活躍により、空人たちの士気は回復し、カーブラの指揮の下、残りのリュウも撃破され、戦いは空人の勝利に終わります。
戦いの後、ウィンは逃走するリュウを追おうとしますが、身体が限界を迎え墜落します。しかし、ロンメルが間一髪で彼を救い出します。ウィンは命に別状はないものの、激しい疲労により一時的に動けなくなります。リズナは、失われた多くの命とウィンの安否に心を痛めますが、アステラの言葉を思い出し、カーブラにウズール山脈への進軍に同行することを志願します。カーブラはウィンの活躍を受けて、弓矢に代わる武器として剣や槍を大量に発注し、ウィンが回復次第、彼の成人の儀式を執り行うことを決めます。
一方、リュウ側では、王クロズナーがサマナドラから5体の若手リュウが空人との戦いで全滅したという報告を受けます。リュウは元々この世界の住人ではなく、旅を続ける流浪の種族であり、メスが極端に少なく個体数を増やすことができないため、この損害は種族の存続に関わる大問題でした。クロズナーは、空人との間に遺恨が残るこの地を去ることを決断し、サマナドラが残って異世界への扉を閉じる役目を引き受けます。サマナドラは、この世界の行く末を見届けたいと願っていました。
空人の遠征部隊はカーブラ、リズナ、そして成人の儀式を終えたウィンを中心に、ウズール山脈へと進軍します。彼らは見張りのリュウがいないことに不審を抱きつつ、リュウの王の間へと辿り着きます。そこで彼らは、一人静かに佇むサマナドラと対面します。サマナドラは、一族が既にこの地を去ったこと、残っているのは自分一人であることを告げ、今回の事件がリュウの不注意と不敬によるものであったと謝罪し、命を差し出します。リズナは冷静に、これで空人との交戦は終わるのかと問い、サマナドラは戦う意思も仲間もいないことを確認します。これを聞いたカーブラは、敗北を認めた者に剣を振るう理由はないとして、戦わず引き返します。
空人たちが去った後、サマナドラは一人残されます。そこに、三大上級神の一人である力の神ザックが訪れます。ザックはクロズナーとの親交があり、サマナドラに大陸を共に旅することを提案します。サマナドラはこれを受け入れ、こうして最後のリュウ、サマナドラは、ザックと共に新たな旅に出ることになります。これは旧暦39年、上級神がまだ人々に身近な存在であった頃の物語です。
この物語は、まるで激しい嵐の後に訪れる虹のようなものです。最初は怒りやプライドによる衝突で多くの犠牲が出ますが、最終的には対話と理解によって新たな道が開かれ、希望の光が差し込むのです。
ライズローム戦記
物語は、大陸西南部のライフローム村を舞台に、主要人物であるレインとクローサーの人生を描いたファンタジーです。
ライフローム村は、知の神テラが豊富な魔鉱石の鉱脈を発見し、その価値と活用法を人々に伝えたことで誕生し、多くの移民と共に発展しました。レインとクローサーは、幼い頃から兄弟のように育ち、テラから森の生き物、大陸の都市、種族、そして魔法についてなど、多岐にわたる知識を学びました。テラは二人にとって、何でも知っている優しい「お姉さん」のような存在でした。
レインが10歳になる頃、テラは大陸情勢の変化により、ライフローム村が魔鉱石を狙われる標的となるだろうと告げました。村を守るため、テラは坑道の入り口を魔法で封印し、レインにその開け方を教えました。テラはレインに魔法の才能があることを見抜き、彼女が村の人々の助けとなり、その力を活かせると信じ、村の未来を託しました。一方、クローサーには、レインが背負う重圧を一人では耐えられないため、彼女を守れるように強くなるよう促しました。クローサーは決意し、約1ヶ月間、力の神ザックから剣術の基本と精神的な教えを受けました。「力は、誰かを傷つけるためのものじゃない。誰かを守るためにある」というザックの教えは、クローサーの心に深く刻まれました。
レインは坑道の守人となり、魔法で坑道の開閉を行う日々を送りました。村人の怪我の治療も行い、皆から頼りにされる存在となります。クローサーは常にレインに寄り添い、村人からは「村一番のおしどり夫婦」と見守られました。ある休息日、二人は坑道内に「秘密基地」を見つけ、そこで共に時間を過ごすようになります。
レインは未来を予知する能力を持っており、最近「変な夢を見る」とクローサーに話しますが、その詳細は明かしませんでした。レインは度々見る悪夢にうなされていましたが、誰にも相談できませんでした。レインが16歳になったある秋の日、村に禍々しい魔力を持った「人ならざる何か」が襲来します。それはオオアラシの大群とヒフキドリの群れであり、村は火の海と化しました。レインは、これらが魔力で操られており、標的は自分であると確信します。
レインは、獣たちを操る本体が「村の北、街道東の高台の上、青い服の女の子の姿をした人ならざる何か」であると突き止め。クローサーはそこへ向かい、少女を倒します。少女は自身が「マザーの意思」で動いていると語りました。村の男たちがオオアラシと戦う中、レインは女子供たちを坑道へ避難させました。全員を中に入れた後、レインは一人外に残り、現れた新たな敵「レンゲ」と対峙します。
レンゲは「マザーの密使」を名乗り、「マザーは我々すべての母」と話しました。彼は強力な肉弾戦を仕掛け、レインは結界魔法で応戦しますが、次第に追い込まれます。その時、クローサーが加勢に駆けつけ、レンゲを食い止めました。レインが奥の手を使おうとした瞬間、突如として黒い装束の男「ジャキ」が現れました。ジャキは自身も「マザーの密使」だと名乗りますが、レンゲとは目的が異なると言い、レンゲを一瞬で斬り捨てました。
ジャキは「強き魂との邂逅」を求め、今度はクローサーに狙いを定めました。クローサーはレインを守るため、ジャキと戦いますが、圧倒的な力の差の前に苦戦します。レインは全魔力を込めた結界でジャキを拘束しようとしますが、力尽きて倒れます。解放されたジャキは、再び斬りかかってきたクローサーの右腕を切断し、そしてクローサーの胸に剣を突き刺し、彼を殺しました。クローサーは最期にレインの名を呼び、愛する女性の姿を見ながら息絶えました。
レインはクローサーを失った喪失感に打ちひしがれ、自分だけが生き残ったことを悔やみました。村はほとんど燃え尽き、多くの村人が命を落とし、残された人々も傷ついていました。父サンズの決断により、残った村人たちはザイルへ避難することになりました。旅の途中、レインはクローサーの子を身籠っていることが判明しました。彼らはザイルの宿場町の人々に温かく迎えられ、半月後にザイルに到着し、それぞれの落ち着く先が決まりました。
ザイルに到着後、テラがレインを訪れ、クローサーの死を知り、レインを抱きしめました。レインはテラに、自身の予知能力と、村を襲った者たちが「マザーの密使」であり、自分を狙っていたことを明かしました。ザイルで穏やかな日々を過ごした後、レインは無事に元気な女の子「アン」を出産しました。レインは、自分の特別な力には役割があり、この子や未来の子供たちのためにも、テラの「使徒」となり、神格を授かり不老不死になる道を選びました。テラはレインの決意を受け入れ、ここに天才魔導士レインは知の神テラの使徒となりました。
ケルンの日々
物語は、ヨダ大陸の交通の要衝であるケルンの町が、北方の国ラグナードの軍勢によって突然占拠されることから始まります。ケルン都市長のバールは、ラグナードの使者ギルから大陸制圧の目的を聞き、抵抗できないまま占領を受け入れます。
この事態に対し、東の大国ドラクの国王ヤトマは激怒し、西の大国クリズナにケルン奪還のための共同作戦を提案します。クリズナ国王エレロンの娘であるシラーナ姫は戦場への参加を熱望しますが、軟禁されます。ドラク軍は古豪のロック将軍が、クリズナ軍は若き魔導士ネズが指揮を執り、ケルン奪還を目指しますが、ラグナード軍の主力である幽鬼と、その背景にあるドットという天才魔導士が残した禁忌の魂を扱う秘術によって、両軍とも大きな損害を受け撤退を余儀なくされます。敗戦後、戦場には謎の「密使」が現れ、倒れた兵士たちの魂を回収していきました。
冬が明け、ラグナード軍がドラク軍が再集結していたロナへ侵攻すると、ドラク軍は力の神ザックとその使徒サマナドラの助力を得てこれを撃退します。この隙を突き、クリズナとザイルの連合軍が再びケルンへ向かいます。そこには知の神テラとその使徒で、魔導士協会の理事を務めるレインの姿がありました。レインは光属性の魔法で幽鬼に絶大な効果を発揮し、ケルンは解放されます。
ケルン解放後、ギルはテラと対峙し、ドットの意志を継ぎ、魂の継承によって究極の高みを目指すというラグナードの真の目的を明かします。ギルは自害し、彼の魂は密使によって回収され、密使たちは異空間の扉を通って姿を消しました。ケルンは解放されたものの、テラは今回の侵攻がより大きな戦いの序章に過ぎないと考えており、ヤトマ国王はラグナードへの先制攻撃を提案。大陸全体は、やがて来るであろう大規模な戦いの渦へと突き進んでいくことになります。
空と風と、愛の詩
美の神アステラが治める平和なラウ湖畔。しかし、その平和は北方の国ラグナードの侵攻によって突如として打ち破られる。 空人の青年ウィンは「マザー」を名乗る謎の存在に仕える「密使」に襲われ、同じく密使でありながらマザーに反旗を翻す剣士アレクに救われる。 ラグナードの脅威に対し、空人の族長カーブラは苦渋の末に東の大国ドラクとの同盟を決断するが、大晦日の夜、ラグナードの幽鬼の大軍が砦を急襲。多くの犠牲者を出し、カーブラもまた犠牲となってしまう。
絶望的な状況の中、アステラは民を空中の楽園へと避難させ、自らは地上に残り、決戦に臨む。病弱な歌姫エムルは、恋人ナズルとの悲しい別れの後、その命の灯火を静かに消す。 ラウ湖の東西で、空人とドラク、クリズナ、ザイルからなる連合軍とラグナード軍の最終決戦の火蓋が切られる。東ではクリズナの若き王女シラーナが、西では力の神ザックとその使徒である最後のリュウ・サマナドラが奮戦。 そして都の内部では、ラグナードの黒幕である伝説の魔導士ドットが、知の神テラの使徒レインと壮絶な魔法戦を繰り広げる。
多くの犠牲と悲しみの果てに、連合軍は辛くも勝利を収める。しかし、黒幕「マザー」の謎は深まり、その配下である密使たちもまだ健在であった。一つの戦いは終わったが、それは大陸全土を巻き込む、新たな物語の始まりに過ぎなかった。愛と犠牲、そして種族の誇りを賭けた壮大な詩が、今、ここに完結し、そして未来へと続いていく。